木の器に盛られた椨粉(タブ粉)と、乾燥前のお香の生地

香りの主役ではない。けれど、この粉がなければお香は形にならない。

この記事の要点

  • 椨粉(タブ粉)はタブノキの樹皮を乾燥させて挽いた粉で、お香を形にするための基材・結着剤です。
  • 水を加えると粘りが出るため、香料の粉をまとめてスティックやコーンの形に固められます。
  • 椨粉はほぼ無臭に近く、主役の香料を邪魔しないため、日本のお香で長く使われてきました。
  • 自作するなら、タブ粉3:香料7程度の割合から試すのが目安です。

お香の原材料表示で「椨(タブ)」「タブ粉」という言葉を見かけたことはないでしょうか。白檀や沈香のような香料ではないのに、多くのお香に入っている。椨粉(たぶこ)は、お香を「かたち」にするための基材・結着剤です。この記事では、椨粉とは何か、なぜお香に欠かせないのか、自作お香での使い方までを解説します。

椨粉とは — タブノキの樹皮を粉にしたもの

椨粉の原料はタブノキ(椨の木)。クスノキ科の常緑樹で、日本では本州から沖縄まで、海沿いの土地を中心に広く自生しています。神社の境内で大木になっていることも多く、身近な木のひとつです。

このタブノキの樹皮を乾燥させ、細かく挽いて粉末にしたものが椨粉です。見た目は淡い茶色の粉で、この状態では特別な香りはほとんどありません。ところがこの粉には、他の木にはあまりない性質があります。水を加えると、強い粘りが出るのです。

なぜ水を加えると固まるのか

タブノキの樹皮には粘液質の成分が含まれており、粉末に水を加えて練ると、糊のような粘りけのある生地になります。この生地に香料の粉を混ぜ込めば、自由な形に成形でき、乾燥させればその形のまま固まります。

つまり椨粉は、接着剤であり、同時にお香の「骨格」です。スティック状のお香が折れずに立ち、端から均一に燃え進むのは、基材が香料の粉をむらなく抱え込んでいるからです。

椨粉+香料 + 水 練る 粘りが出る 成形 細く伸ばす 乾燥 数日〜 椨粉の粘りが、香料の粉をひとつの「かたち」にまとめる。

椨粉自体は、ほぼ無臭に近い

椨粉は、それ自体ではほとんど香りません。そして基材にとっていちばん大切な条件は、意外にも「香らないこと」です。基材はお香の体積のかなりの部分を占めます。もし基材自体に強い匂いがあれば、せっかくの白檀もジャスミンも、その匂いに覆われてしまいます。

椨粉は、燃やしてもほのかな木の匂いがある程度で、主役の香料をほとんど邪魔しません。粘りが強く、香りが控えめ。この二つを兼ね備えているからこそ、椨粉は日本のお香づくりで長く使われてきたと伝わります。

椨粉の役割具体的には
結着水で粘りを出し、香料の粉をひとつにまとめる
保形乾燥後もスティックやコーンの形を保ち、折れにくくする
燃焼を支える端から均一に燃え進む土台になる
香りを邪魔しないほぼ無臭に近く、主役の香料を引き立てる

自作お香でのタブ粉の使い方

タブ粉は、香料の粉と混ぜて水で練り、成形して乾燥させる——この4ステップで使います。タブ粉自体は、お香の専門店や香原料のオンラインショップで手に入ります。自宅でお香を作るときの基本の流れはこうです。

  1. タブ粉と香料の粉を混ぜる — 白檀の粉末など、好みの香原料と乾いた状態でよく混ぜます。
  2. 水を少しずつ加えて練る — 耳たぶくらいの固さを目安に。入れすぎると成形しにくくなります。
  3. 成形する — 細く伸ばせばスティック、円錐にまとめればコーンに。
  4. 数日かけて乾燥させる — 直射日光を避け、風通しのよい場所でゆっくり乾かします。

配合に決まった正解はありませんが、タブ粉3:香料7程度の割合から試す人が多いようです。タブ粉が多いほど固めやすく、燃焼も安定しますが、そのぶん香りは薄くなります。逆に香料が多すぎると、香り高い反面もろく、燃えにくくなることも。詳しい手順はお香の作り方の記事にまとめています。

良いお香ほど、基材は主張しない

基材が整っているお香ほど、基材の存在は感じられません。香料の輪郭だけがきれいに立つからです。お香を選ぶとき、私たちは香料の名前ばかり見てしまいます。けれど、実際に火をつけたときの印象は、基材と香料のバランスで決まります。基材の配合が雑なら、燃やした瞬間に「粉っぽい」「焦げ臭い」と感じる。基材が整っていれば、香料の輪郭がそのまま立ちのぼる。

nagomi. のお香は、「燃焼中の香り」に徹底的にこだわってつくられています。火をつける前にいい匂いがしても、燃やしたら別物──それではお香の意味がありません。淡路島の香司(こうし)(=香りの配合を設計する職人)と焚き比べを重ね、燃えているあいだの香りが設計どおりに立つよう、基材と香料の配合を調整しています。椨粉のような脇役が静かに仕事をしているお香ほど、香りは澄んで感じられます。

どの香りから試すか迷ったら、40秒の香り診断で自分に合う一本を探してみてください。

よくある質問

椨粉(タブ粉)とは何ですか?
タブノキ(椨)の樹皮を乾燥させて粉末にしたもので、お香の基材・結着剤として使われます。水を加えると粘りが出るため、香料の粉を混ぜてスティックやコーンの形に固めることができます。
椨粉自体に香りはありますか?
ほのかな木の匂いはありますが、ほぼ無臭に近い素材です。主役の香料を邪魔しないことが基材の大切な条件で、椨粉はその点で優れているため、日本のお香で長く使われてきました。
自作のお香ではタブ粉をどれくらい入れればいいですか?
決まった正解はありませんが、タブ粉3:香料7程度の割合から試す人が多いようです。タブ粉が多いと固めやすい一方で香りは弱くなり、少ないと香り高い反面もろくなります。少量ずつ調整してください。
タブ粉はどこで買えますか?
お香の材料を扱う専門店や、香原料を販売するオンラインショップで購入できます。お香作り体験のキットに、香料とセットで含まれていることもあります。
市販のお香にも椨粉は入っていますか?
スティックタイプやコーンタイプの多くで、椨粉などの基材が使われています。粉末の香料だけでは形を保てないため、何らかの結着剤が必要になるからです。nagomi. のお香も、基材が香りを邪魔しないよう配合を調整しています。
nagomi. 香り監修 川辺一寛

Supervisor

川辺 一寛nagomi. 香り監修

京都生まれ、京都育ち。株式会社若林佛具製作所にて四半世紀以上にわたり香りと向き合い、仏事コーディネーター・京仏マスターソムリエの資格を持つ。nagomi.では香りの方向づけと、淡路島の香司との焚き比べ・共同開発を担う。

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