乾かした植物の香料と、香料を量るための小さな器具を並べた作業台

由来ではなく、何をどう使ったか。

この記事の要点

  • 天然香料は植物などから取り出した香料、合成香料は化学的につくった香料です。
  • 「天然=安全、合成=危険」は正しくありません。天然由来にもアレルギーの原因になりうる成分があります。
  • 天然は奥行きと焚くあいだの変化が得意で、合成は品質の均一さ・安定供給・希少資源を使わない点が得意です。
  • 判断すべきは由来ではなく、つくり手が何をどう使い、どこまで説明しているかです。nagomi. は天然香料を使用しています。

お香を選ぶとき、「天然香料」という言葉を見て安心する方は多いと思います。そして「合成香料」と聞くと、少し身構える方もいるはずです。けれど、この受け止め方は正確ではありません。この記事では、どちらかを持ち上げるのではなく、それぞれが何を得意としているのかを、できるだけ公平に整理します。

定義 — 何をもって天然・合成と呼ぶか

天然香料は植物などから取り出した香料、合成香料は化学的な合成でつくった香料を指します。まず言葉の意味を揃えます。

  • 天然香料 — 植物の花・葉・木部・樹皮・樹脂などから、水蒸気蒸留や圧搾、抽出といった方法で取り出した香料。お香で言えば、白檀や沈香などの香木、乳香などの樹脂、桂皮や丁子といったスパイスがこれにあたります。
  • 合成香料 — 化学的な合成によってつくられる香料。天然に存在する成分を人工的につくったものもあれば、自然界にはない香りを設計したものもあります。

大きな違いは成分の構成です。天然香料は数十から数百の成分がひとかたまりになった状態で、その全体像を完全に把握するのは容易ではありません。一方、合成香料は目的の成分を狙ってつくるため、何が入っているかがはっきりしています。

「天然=安全、合成=危険」は、正しくありません

ここは誠実に書いておきたいところです。由来が天然かどうかと、安全かどうかは、別の話です。

天然の植物由来の成分にも、体質によってアレルギー反応の原因になりうるものは存在します。香料の分野では、天然由来であっても注意が必要な成分が知られており、表示や使用量の目安が定められている例もあります。「植物から採ったのだから体にやさしい」という理屈は、残念ながら成り立ちません。

逆に、合成香料には成分が特定しやすいという大きな利点があります。何がどれだけ入っているかが分かるということは、管理ができるということです。品質の均一さも、この特定しやすさから来ています。

結局のところ、判断すべきは由来ではなく、つくり手が何をどう使い、どう説明しているかです。お香と体の関係についてはお香は体に悪い?でも扱っています。

それぞれが得意なこと

天然香料は奥行きと変化、合成香料は品質の均一さと安定供給が得意です。優劣ではなく、性質の違いとして見るとよく分かります。

天然香料が得意なこと 合成香料が得意なこと ・多数の成分による奥行き ・焚くほどに変わる表情 ・香木など代替の難しい個性 ・産地や年による揺らぎ △ 供給が天候・資源に左右される △ 価格が高くなりやすい ・いつ買っても同じ品質 ・成分が特定しやすい ・希少資源を消費しない ・価格を抑えられる △ 複雑さの再現には限界がある △ 揺らぎが出にくい

天然香料の最大の魅力は、成分の多さがつくる奥行きです。焚いているあいだに表情が少しずつ変わり、同じ一本でも最初と最後で印象が違う。この「揺らぎ」は、成分が複雑に混ざっているからこそ起きます。

そして香木のように、代替が難しいものもあります。白檀や沈香の香りは、主要な成分を再現することはできても、焚いたときの全体としての立ち上がり方までを含めて置き換えるのは容易ではないとされています(香木はなぜ高い?)。

一方、合成香料が支えているものも大きい。「去年買ったものと今年買ったものが同じ香りである」という当たり前は、実は簡単ではありません。天然原料は産地の天候や年による差が出ます。合成香料は、この揺らぎをなくす方向に働きます。

観点天然香料合成香料
成分の構成多数が複雑に混ざる目的の成分が明確
香りの変化時間とともに表情が動く設計どおりに安定
品質の均一さロットごとに差が出る高い
供給の安定天候・産地に左右される安定している
価格高くなりやすい抑えやすい
資源への影響使うほど資源を消費する希少資源を消費しない

資源の持続可能性という、避けられない話

天然香料には、もうひとつ考えるべき側面があります。使えば減るということです。

香木は、木が育ち、条件が揃ってはじめて香りを持つようになります。とくに沈香は、樹木が傷ついたあと長い年月をかけて樹脂を蓄えたものとされ、すぐに増やせるものではありません。需要が増えれば、資源は細ります。

こうした背景から、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)によって国際取引が管理されている香料原料もあります。取引そのものが禁じられているという意味ではなく、正規の手続きを経て流通させる仕組みがあるということです。

この文脈で見ると、合成香料は資源を守る側の技術でもあります。希少な原料を使わずに近い香りを届けられるなら、それは肯定的な役割です。天然を選ぶことは、その分だけ資源に対する責任を負うことでもある、と私たちは考えています。

nagomi. の立場と、あなたの選び方

nagomi. は天然香料を使用しています。香木や樹脂、スパイスが持つ複雑さと、焚いているあいだの表情の変化を大切にしたいからです。京都のnagomi.が香りを方向づけ、淡路島の香司(こうし=香りの配合を設計する職人)と焚き比べを重ねてつくっています(お香づくりのこだわり)。

ただし、これは合成香料を使う製品を否定する立場ではありません。私たちがつくりたい香りに天然が合っている、という選択にすぎません。

そのうえで、選ぶときの実用的な指針をお伝えします。

あなたが重視すること選び方の指針
香りの奥行き・変化を楽しみたい天然香料を使ったものを。焚いている30分の変化を味わえます
いつも同じ香りであってほしい安定性を重視した製品を。合成香料はここに強みがあります
毎日気軽に使いたい価格と本数のバランスで選ぶのが現実的です(お香のコスパ
体質が心配由来ではなく、原材料が具体的に書かれているものを選び、換気しながら少量から

いちばんの手がかりは、つくり手が何をどこまで説明しているかです。お香ブランドの選び方でも書いたとおり、説明の丁寧さは製品への向き合い方をよく表します。

まずは少量で試したい方は、短寸のお試し香が手軽です。方向が決まらない方は40秒の香り診断もどうぞ。

よくある質問

天然香料と合成香料は何が違うのですか?
植物や樹脂などから採り出したものが天然香料、化学的につくり出したものが合成香料です。天然香料は多数の成分が複雑に混ざった状態で、合成香料は目的の成分を狙ってつくるため構成がはっきりしている、という違いがあります。
天然香料のほうが安全なのですか?
天然だから安全、合成だから危険、という単純な分け方はできません。天然の植物由来成分にもアレルギーの原因になりうるものはありますし、合成香料は成分が特定しやすく品質が均一という利点があります。大切なのは由来ではなく、つくり手が何をどう使っているかです。
合成香料の利点は何ですか?
同じ品質のものを安定して供給できること、価格を抑えられること、そして希少な天然資源を消費せずに済むことです。天候や産地の事情に左右されにくいため、同じ商品をいつ買っても同じ香りであることを支えています。
香木は合成で再現できないのですか?
主要な香気成分を再現することはできますが、香木の香りは非常に多くの成分が複雑に絡み合ってできており、その全体をそのまま再構成するのは難しいとされています。とくに焚いたときの変化までを含めた再現は簡単ではありません。
nagomi. のお香はどちらを使っていますか?
天然香料を使用しています。香木や樹脂、スパイスなどの持つ複雑さを生かしたいためです。ただしこれは合成香料を否定する立場ではなく、私たちがつくりたい香りに天然が合っている、という選択です。
nagomi. 香り監修 川辺一寛

Supervisor

川辺 一寛nagomi. 香り監修

京都生まれ、京都育ち。株式会社若林佛具製作所にて四半世紀以上にわたり香りと向き合い、仏事コーディネーター・京仏マスターソムリエの資格を持つ。nagomi.では香りの方向づけと、淡路島の香司との焚き比べ・共同開発を担う。

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